「趣味の正しい使い方」
今年2月に70号館1階で、恒例の建築学科卒業制作展が開催されました。会場を訪れ、市岡綾子先生や後輩の学生と歓談されていた建築学科卒業生の橋本さんに卒業後のお話をお聞きしました。橋本さんは大学時代には美術部の部長を務められていたそうです。
私は、2016年に建築学科を卒業し、岩手県の東日本大震災被災地復興現場の経験を経て、現在は地元須賀川市の「久保木畳店」に勤めています。念願の故郷での仕事ができているのは、あらゆる巡りあわせや、人との縁があったおかげです。しかしそれらを呼び起こしてくれたのは、自分の「趣味」でした。趣味に助けられた多くの経験から感じた「仕事と趣味の関係」についてお話しさせて頂きます。
就職や進学の時期が近付くにつれ「好きなことを仕事に」という謳い文句をいたる所で耳にするようになります。好きなこと、いわゆる「趣味」で報酬を得られたら確かに良さそうに聞こえますが、これを鵜呑みにするべきではありません。そもそも報酬を得るには「他人のため」にやることが大前提となります。それに対して、趣味というのは「自分自身のため」にやることなので対価は発生しにくいでしょう。
では、趣味を仕事にしたらどうなるでしょうか?
仕事相手がいれば、必ず新たな要求を迫られ、時には拒否されることもあるでしょう。更には、思いもよらない問題や煩わしい業務がいくつも付いてまわり、やりたいと思っていたことは中々できません。社会に出てから目の当たりにするこういったギャップは想像以上に衝撃的なものです。楽しめなくなった時、それは趣味ではなくなってしまいます。趣味は楽しくなくてはいけません!
私には、絵を描くといった昔からの趣味があります。ただ楽しくて続けてきましたが、これを通じて学んだことは数知れないし、私の身を救ってくれたのも事実です。例えばデッサンは、モチーフの形状や質感、立体物と空間と光源の関係等をよく観察したうえで紙に写していくものです。これをする上で最大の敵となるのが「固定概念」です。すでに自分の中にあるイメージを全て払拭しなければデッサンは完成しません。
つまり「多面的な考え方」や「思い込みを疑う力」、まさしくそこを教わったのです。これらは現在の日常生活にも仕事にも強く活き続けています。そう、趣味というのは仕事に“活きてくる”ものなのです。一見、無関係なもの同士でも、必ずどこかが共通しています。逆に、仕事が趣味に活きるということもありました。建築現場監督の時に身に付けた工程管理のスキルは作品制作の計画建てに、図面を引いた経験は論理的な思考で制作をするのに活かされています。
このように、互いの共通点に気づくことができれば、両者とも高め合うことができるし、たとえつらい仕事にさえ楽しみを見出すことができるのです。“趣味は楽しくなくてはいけない”と先に述べた通り、好きで続けられる上に能力を高められるなんて、これほど都合のいいことはありません。趣味にはとてつもない力があります。
是非とも、皆様も趣味を大切にして頂きたい。あなたの「好き」の力が、実を結びますように。