支部・部会リポート:関東支部リポート
森からきた家具と彫刻 ~スナンタ製作所~
関東支部リポート:新時代の校友企業
ともに建築学科を卒業された若林さんご夫妻。克友さんは山梨県の自然豊かな工房で、より「樹」に近い「木」を使い、小物、家具、彫刻を製作。何より素材に寄添い、使いやすくつくりやすい、うつくしいカタチを求めて家具と彫刻、木と石、境界線のないものづくりを展開しています。美緒さんは暮らしと子育てを軸に、仕事をたのしみ、事務、広報を担当。運営、製作において克友さんをサポートしています。(ホームページプロフィール参考) 今回、スナンタ製作所の仕事への思いと作品例をご寄稿いただき、ありがとうございました。今後もお二人のご活躍をお祈り申し上げます。
スナンタ製作所 (sunanta.work)
~私たちは、山梨県で家具と彫刻の木工房を開いています。市街地からそれほど離れない山間部に工房と住居を構え、こどもたちと共に暮らしながらものづくりをしています。もとは家具製作でしたが、震災以降、彫刻製作を開始。現在は、家具の技術を彫刻に活かし、彫刻の感覚を家具に取込むスタイルでものづくりをしています。
このスタイルの起点となったのは、「森を感じる椅子を」という注文から製作した「森からきた椅子」でした。森は、生き生きとした生命だけで成り立っているわけではなく、のぼり調子の命、くだり調子の命 、樹と虫と鳥と動物と菌と、多様な種族が関わりあって生きていて、生まれたり死んだりしながらそれぞれの個体が、おそらく無意識でその種の存続のために生きています。芯腐れのエンジュを脚に、虫が這ったカエデを背もたれに、キツツキが穴を開けたナラを座面に使いました。森の多様さと壮大な循環を姿に残す作品ですが、椅子としての強度を得るためには、奔放な部材たちに精密なほぞ加工が必要です。発想は彫刻、加工は家具、造形の調整は彫刻、強度確認は家具。彫刻製作の感覚と家具製作の技術の両刀を駆使して製作しました。
近年は材料として使用する木材を森から切り出してくることが増えました。伐採後、製材所で製材し皮を剥ぎ数年の間乾燥を待ちながら材料庫で寝かせます。森で生きていた「樹」は、こうして切り倒されて「木材」になります。その時の彼らは外界との養分のやりとりを断たれ、生物としては死の状態です。しかしそこから椅子やテーブルの姿になると、再び生き始めるように見えます。生命とも違う、そのものの「存在」としての「生きる」。「樹」から 「木材」になり、さらに「椅子」になるということは、幼虫がさなぎになって眠り蝶として目覚めるような 生物学的に言えば 「変態」なのではないかと思います。樹は人にない次元を持っており、まだその生態を捉えきることができていません。とにかく言えることは、樹の在り方はとてもシンプルで、硬派で、潔いということ。少しうらやましいと感じています。
樹をヒントに森や世界を探求すること、それらと自分が関わってものづくりをすること、それを仕事にしてこの社会の中でこどもを育て暮らしていくこと。それが私たちの日々です。~
【写真:「森からきた椅子」個人所有2021年製作/「反転の森」山梨県富士川町児童センター2019年製作/「残生」河口湖ハナテラス2017年製作/「3WAYテーブル」個人所有2021年製作】