「拝啓、先生」~山田義文さん(建築学科)~
「ユニバーサルデザイン」のこれから
来年は東京オリンピック・パラリンピック開催年であり、バリアフリー・ユニバーサルデザインの更なる普及が期待されます。「すべてのひとにやさしい医療・福祉建築のデザインを探求する」工学部建築学科 医療・福祉建築デザイン研究室専任講師の山田先生は、8月に開催されたオープンキャンパスで、研究室の学生らと、来校した高校生・父兄の皆さんに、最新のハイブリッドタイプ車椅子や白杖を使用した体験コーナーを展開されていました。その山田先生に「ユニバーサルデザイン」のこれからを語っていただきました。ありがとうございました。
~お昼時の学食。午前中の講義が終わると、多くの学生で賑わいを見せる。昔から続く、いつもの光景である。昼食をとりながら仲間と語らい、休息をとり、午後の授業へ向けて英気を養う。しかし、視覚に障がいのある学生が混雑した学食を利用する場合、果たして他の学生と同じように利用できるだろうか。メニューの選び方、食券の買い方、並び方、空席の探し方など、普段の何気ない行為も、立場を変えると大きなバリアが行く手を阻む。
障がい者に対して特別な対応をすれば、利用自体は可能となる。しかし、障がい者を分け隔てることにより、「心のバリア」が新たに生じてしまう。同じ環境で誰もがともに普通の生活ができる「ノーマライゼーション」の理念を推進するには、多様な人々に寄り添う「ユニバーサルデザイン」の適用が求められる。
建築学科では、2018年度から3年生の建築実験において、白杖を使って普段の大学生活の一場面を再現した際に生じるバリアを検証している。実験では目隠をして、白杖と友人のガイドを手掛かりに馴染み深い環境を探査する。普段は使わない階段の手すりを恐る恐る掴みながら、ゆっくりと進む。音に敏感になり、方向感覚も失い、恐怖と隣り合わせの時間が続く。検証終了後は、心身ともに疲れが一気に溢れる。
検証後のレポートには、普段は気づかない数々のバリアが指摘される。車止めや芝生への立入を防ぐロープ、コーナーの応接セット、顔の高さに張り出す木の枝や看板などの「物理的なバリア」。建物の出入口や教室の位置、階段の段数など、「情報面のバリア」。友人との意思疎通がうまく図れない、特別対応されるなど、「心のバリア」。屋外から建物内に入った瞬間に、取り囲まれる空気の変化から感じる圧迫感や、白杖が予期せず小さな物体に接触した時に感じる恐怖感なども挙げられる。
キャンパス内の屋外空間には、誘導ブロックが敷設されていない箇所が多い。実験中、車道と歩道間の段差がバリアから道標に化す場面も見られた。バリアフリー新法が施行された今日でも、駅のホームで視覚障がい者が転落する事故が依然として絶えない。若きエンジニアには、法の基準に自身の感性をプラスして都市や建築のデザインを探求していただきたい。~
【写真:建築計画Ⅳの講義にて/建築実験にて/研究室にて/オープンキャンパスにて(展示パネル)/オープンキャンパスにて(車いす体験)/オープンキャンパスにて(白杖体験)】