「拝啓、先生」~若井 正一さん(建築学科)~
< レオナルド・ダ・ヴィンチの息吹 > 本学図書館工学部分館所蔵の「レティ・コレクション」について
かつて、工学部建築学科主任教授や図書館館長などを務められ、現在、「人間環境デザイン工房」代表の日本大学名誉教授の若井正一先生から<レオナルド・ダ・ヴィンチの息吹>本学図書館工学部分館所蔵の「レティ・コレクション」について、ご寄稿いただきました。
本学図書館工学部分館が所蔵する「レティ・コレクション」は、学部創立50周年記念事業の一つとして、1995年度から3年間をかけて本学部図書館に構築されたものです。同コレクションは、レオナルド・ダ・ヴィンチ研究の第一人者、ラディスラオ・レティ(Ladislao Reti:1901-1973)博士によるダ・ヴィンチに関する著書および論文(22点)、ダ・ヴィンチの手稿(ファクシミリ版)とその関係資料(199点)、ダ・ヴィンチ関連の研究文献(373 点)などの貴重な稀覯本を蒐集したものです。
レティ博士は、旧・ユーゴスラビアに生まれ、ウィーン工業大学を卒業後、イタリアのボローニャ大学で博士号を取得しました。その後、南米で会社設立などに関わった後に、カリフォルニア大学UCLA附属のエルマー・ベルト・レオナルド図書館の研究員となり、ダ・ヴィンチの研究に深く関わりました。同博士は、1963年に発表した論文「フランチェスコ・ディ・ジョルジョ・マルティーニの技術書とその剽窃者たち」1)により、翌年、科学技術史協会より学術賞(Abbott Payson Usher Prize of SHOT)を受賞しました。その後、同博士は、マドリッド国立図書館で1966年に再発見2)されたダ・ヴィンチの「マドリッド手稿」の編纂に関わり、晩年の1970年にUCLA の名誉教授となって、1972 年に同協会より栄誉あるレオナルド・ダ・ヴィンチ・メダルが授与されました。
筆者は、「レティ・コレクション」が開設してまもなく、同図書館の館長として奉職(1999-2005)した関係から、学内外に向けて収蔵するダ・ヴィンチ関連文献の一般公開や学外展示への特別貸出などを行った実績があります。筆者が本学退職後、科研費による継続研究のために東京藝術大学大学院美術研究科へ在籍中、縁あって「美術解剖学会」に入会しました。同学会がレオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年の記念大会を開催した2019年に、筆者は、「レティ博士の視座からみたレオナルド・ダ・ヴィンチ関連史料に関する一考察」と題して研究発表を行いました。その内容は、「レティ・コレクション」に所蔵された文献などから、レティ博士が探求した建築家・フランチェスコ・ジョルジョ(1439-1501)と13歳年下のダ・ヴィンチが1490年に出会ったとする史実に着目して、1490年頃にダ・ヴィンチが描いたとされる「ウィトルウィウス的人体図」などが、筆者の研究課題3)を啓発する端緒となった因縁について考察したものです。
ここで、筆者の研究関連のこぼれ話になりますが、昨秋、4年ぶりに開催された本学部恒例の「母校を訪ねる会」で、昨年、日本人が受賞した「イグ・ノーベル賞」の研究内容に私も関係しているのではないかと、参加者から問合せをいただきました。実は、当該受賞は、かつて一緒に実験研究をしていた本学教授(故人)が他大学に異動して、そこで指導した新進気鋭の先生が受賞したものです。その研究データは、筆者らが編纂した建築設計資料集成「人間」4)に収録されています。いずれにしても、地道な研究に光があたることは嬉しい限りです。
- 1) “Francesco di Giorgio Martini’s Treatise on Engineering and It’s Plagiarist”, Ladislao Reti, 1963
- 2) マドリッド手稿は、収蔵図書目録に誤った名前でまとめられていたために1966 年に再発見された。
- 3) 若井正一;身体を指標としたアキ寸法の計測に関する研究,東京大学大学院 博士(工学)学位論文,1995.
- 4) 建築設計資料集成「人間」;日本建築学会編,丸善株式会社刊,2003