支部・部会リポート:教員部会リポート
「北海道一小さな村の奇跡の学校」
~おといねっぷ美術工芸高等学校の取り組み~
7月30日、「高大連携推進講演会」が、新型コロナ感染対策が考慮された環境下で開催されました。「北海道一小さな村の奇跡の学校~おといねっぷ美術工芸高等学校の取組み~」と題して講師を努められた校長の池原さんに改めて北海道おといねっぷ美術工芸高等学校のこれまでとこれからについての思いをご寄稿いただきました。ありがとうございます。
~北海道一小さな村にある北海道おといねっぷ美術工芸高等学校長 池原 智宏です。
私は昭和61年4月に工学部建築学科に入学しました。出身は北海道旭川市で、北海道旭川工業高校建築科3年のとき、担任であった故・髙崎 格(建築14回) 先生の勧めもあり、入学の機会を得ました。高校入学時から教員を考えていたことも、日本大学工学部を選んだ理由になりました。
本校は、昭和25年に音威子府村の強い要望と期待を受けて、村立の高校として、名寄農業高校音威子府分校として認可されました。その後、職業科目として「自動車一般」、「インテリア実習」、芸術科目として「工芸」を取り入れるなど、時代の変化に対応した教育課程を編成しながら今日に至っています。学校存続の危機が訪れたのは、昭和51年頃からで、入学者が激減します。村の人口減や少子化に伴い入学者が大幅に減少し、学校の存続が危ぶまれる危機的状況にありました。
その打開策の一つとして木材工芸教育を中心とする高校振興策が提言され、昭和53年に芸術科目として工芸、職業科目としてインテリア実習を選択しました。昭和54年には、「チセネシリ寮」を建設し、広く村外の生徒も受け入れることができる環境を整え、特色ある教育活動を模索した時期でもありました。
昭和59年には、北海道で唯一の全日制工芸科単置の高等学校として再スタートしました。平成14年には、校名を「北海道音威子府高等学校」から「北海道おといねっぷ美術工芸高等学校」へと改名し、校名の読みやすさと特色ある教育内容をわかりやすく印象づけ、翌平成15年度からは2学期制と美術・工芸のコース選択制を導入し、芸術としての美術工芸教育を前面に出し自己実現を図ることを目標に、進路指導の充実も努めてきました。ここ数年、本校への興味関心が高まり、入学希望者数が増加傾向にあります。
今年度、全校生徒は110名で村の6人に1人が高校生です。今年度は、37名の入学者を迎えました。全校生徒の出身地では、札幌市9名(8.2%)、上川管内30名(27.3%)など道内が87名(79.1%)、道外23名(20.9%)となっており、現在、すべての生徒が寮生活をおくっています。
本校の校訓は、ハートアンドクリエーションです。造形体験を通して「豊かな心」と「創造力」を育み、学生の可能性を引き出し、「夢を叶える学力」と「豊かな人間性」の育成を目標に日々教育活動に取り組んでいます。また、スクール・ミッションとスクール・ポリシーを策定し、広く本校が求める学生を募集しています。
本校のカリキュラムですが、今年から新学習指導要領が年次進行ではじまるのに合わせ、普通教科の段階的な配置を工夫し、教科のアンバランスを解消、1学年の学力検査を可能にしています。進学を意識した工芸科への素描を導入、コース別実習内容の精選を行いました。
学生は、入学すると美術・工芸の基本技術を身につけ、楽しさを味わう授業から「ものづくりを通して自分をつくる」3年間が始まります。芸術的なデザイン力を付けると共に、自分の将来もデザインしていきます。カリキュラムの大きな流れは1年で基礎を学び、2年で美術か工芸のコースを選択し、3年は卒業制作に取り組むというものです。3年生最後の1月に行われる卒業制作発表会では、1年間かけて制作した作品のプレゼンテーションを一人ひとりが行い、その後、1・2年生との交流会で、制作した作品についての対話が行われます。この体験と、成就感が生徒を大きく成長させていると思います。
本校は、若手教員が多く、日頃から生徒と真剣に向かい合い、夢と情熱を持ちながら意欲的に取り組み、学校運営にも積極的に参画しています。本校における学校経営上の課題は、生徒数を十分確保しながら安定した教育実践ができる環境を維持していくことにあります。音威子府村の自然環境、学校の教育環境、寮の生活環境、そして、授業環境が、生徒の創造力を高め、隠れている能力を引き出す重要な要素になっています。保護者や地域住民と一体となった魅力ある学校づくりをさらに推進し、その成果を全国に広く発信していくことが重要であると思います。
「おと高は一日にして成らず」。長年の努力なしに今のおといねっぷ美術工芸高等学校はないと思います。全国から全道から村から、夢と希望を創造できる学校づくりは、まだまだ道半ばです。もっともっと全国に知名度を広げ、これからも夢を持った学生の集まる学校であり続けたいと思います。~
【写真:校舎5月の桜/校舎冬の校舎前景/校舎玄関ホール作品展示/音威子府駅舎/音威子府俯瞰】